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コクリコ坂から

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「コクリコ坂から」原作との違い&映画がぐんと面白くなる裏設定とは?

2021.06.14

少年と少女の切ない恋が魅力的な『コクリコ坂から』。原作は少女漫画で、映画とは違う部分も多いですが、そこもまた「ジブリらしさ」のひとつですよね。では、どういった部分が原作とは違うのか、裏設定はあるのか、映画『コクリコ坂から』について考察していきます。

  1. 『コクリコ坂から』とは
  2. 【コクリコ坂から】原作について【原作・裏設定】
  3. 【コクリコ坂から】原作との違い①海に関する設定【原作・裏設定】
  4. 【コクリコ坂から】原作との違い②カルチェラタンの有無【原作・裏設定】
  5. 【コクリコ坂から】原作との違い③登場人物【原作・裏設定】
  6. 【コクリコ坂から】考察①時代背景について【原作・裏設定】
  7. 【コクリコ坂から】考察②海と風間の恋の始まり【原作・裏設定】
  8. 【コクリコ坂から】考察③原作から大幅改編した理由【原作・裏設定】
  9. 【コクリコ坂から】考察④『コクリコ坂から』で描きたかったもの【原作・裏設定】
  10. 『コクリコ坂から』についてまとめ
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『コクリコ坂から』とは、少女漫画雑誌「なかよし」にて連載されていた漫画で、宮崎吾朗さんが監督したジブリ映画です。宮崎駿監督の実子・宮崎吾朗さんが監督を務めるのは本作で2作目ですね。

キャラクターの設定や、絵柄など原作漫画とはガラッと雰囲気を変えた作品でしたが、昭和中期の世界観が非常にリアルで、それでいてどこか夢のあるストーリーがファンの心を掴みました。

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「コクリコ荘」で家事などを行っている女子高生の松崎海は、毎朝庭にある旗を揚げるのを日課としていました。ある日、毎朝旗を揚げる自分のことを詠んだと思われる詩が、学校新聞に掲載されていることに気付き、その相手に思いを馳せるようになります。そんななか、部室棟・カルチェラタンの老朽化による取り壊しに反対している男子学生、風間俊と知り合い、彼が詩の相手であると知った海は、次第に彼に惹かれていくようになるのです。

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『コクリコ坂から』の原作は、昭和後期に雑誌「なかよし」で連載されていた少女漫画です。原作の絵柄を見ると、映画とはだいぶ雰囲気が違うことが分かりますね。原作の、当時の少女漫画らしい、華やかで煌びやかな絵柄も可愛らしいですが、ジブリらしい、どこか素朴でリアリティのある絵柄もまた素敵ですよね。

原作と映画では、絵柄以外にもキャラクターの名前や設定、ストーリーの軸など違う点が多く存在しており、どちらかを先に見ていたとしても、それぞれ十分楽しむことができますよ。また、漫画では文字でセリフが見られるため、映画では混乱しやすい人間関係や相関図について、きちんと把握できるのが嬉しい部分ですね。

映画では「コクリコ荘」と呼ばれる下宿屋を切り盛りしていますが、原作では実家に下宿人がいるという設定で、家のことを母親の代わりにやっているという表現にされています。実家の家事と下宿屋の切り盛りだったら、後者のほうが面倒見の良さや責任感の強さなどが伝わってきますし、『コクリコ坂から』というタイトルとの紐付けもしやすいですよね。

また、ジブリ映画では多々見られることですが、性格も原作に比べると大人しめになっているのが印象的です。もちろん、映画でも教師と生徒の間で取り壊しが議論されているカルチェラタンについて、その反対運動に参加するなど積極的な部分も見られますが、原作はより快活さが目立ち、当時の少女漫画の主人公らしい「不遇にもめげない」「挫けない明るさ」というのがより色濃く見受けられますね。

映画と原作の最大の違いになりますが、原作には「カルチェラタン」と呼ばれる部室棟は存在しません。映画が、カルチェラタンを巡る学生運動を主軸に話を進めているため、原作にもあるかのように思えますが、実はこれは映画オリジナルの描写なのです。原作はどちらかと言えば、海と風間の恋愛を中心に物語が進んでいくので、そこを主軸にしないためにカルチェラタンが追加されたのだと考察されます。

ジブリで恋愛を描くことは珍しくありませんが、基本的には恋愛以外の部分を前面に押し出し、その水面下で2人の距離を縮めるという描き方をしています。その従来のジブリらしい描き方、恋愛を主軸にしない描き方にのっとり、カルチェラタンを追加したのでしょう。学生が大人に屈せず主張を通そうとする学生運動のシーンは、現代ではなかなか見られない場面であり、その時代らしさもよく表していますよね。

原作が恋愛中心の少女漫画だったため、原作には海がそもそも好きだった人、風間と一時別れたときに付き合った人など多くの恋の相手が登場するのですが、映画ではその性別が変わっていたり、登場しなかった人物もいました。例えば、映画で登場した、コクリコ荘に下宿している北斗美樹は、原作では北見北斗という男性で、海が風間と出会う前好意を寄せていた相手という設定になっていたのです。

年上の男性への片想い、反発しつつも次第に気になっていく同い年の男の子、好きなのに別れなければいけなくなり、その反動ですぐに別の人と交際を始める展開などは、まさに昔ながらの王道な少女漫画展開ですよね。そういった少々ごちゃごちゃした人間関係をすっきりと整理しつつ、原作のメインストーリーを踏襲した映画は、非常に綺麗にまとめられた作品だと言えるのではないでしょうか。

原作にはない映画での裏設定として、作中の時代背景には朝鮮戦争が絡んでいました。海が毎朝旗を揚げているのは、朝鮮戦争のなか物資を輸送する船に乗船し、それを狙った水中兵器によって亡くなった父親を偲んでのこと。では何故、原作では船の遭難で行方がわからないとしていた父親の設定を、映画では戦争中の出来事で亡くなったことにしたのでしょうか。

おそらく、朝鮮戦争中当時、日本が物資を輸送していたこと、それで亡くなった人がいることを大々的に公表できなかったことが理由だと考察されます。本作の脚本は、丹羽圭子さんと宮崎駿さんが担当されたのですが、こうした時代の歴史に埋もれてしまいそうな真実を、それとなく物語に組み込み、現代の若者に伝えるのが宮崎駿さんらしいところではないでしょうか。

戦争に関することは、詳しく知ろうとしなければ、なかなか知る機会のないことです。そういった、普段なかなか知り得ないことを、あえて調べなければ理解できないように物語に入れ込むことで、現代を生きる人々に「学ぶきっかけ」を与えてくれているように感じますね。

『コクリコ坂から』は海視点で描かれているため、海が風間に惹かれていく様子はよく分かりますが、風間がいつどの段階で海を好きになったのかはいまいちよく分かりませんよね。これは、海が風間と知り合う前から、風間が海のことを好きだったからではないかと考察されます。学校新聞に詩を載せたりするあたり、少々まわりくどい気もしますが、「自分は旗を揚げている君に気づいたのだから、君も詩を記す自分に気づいて欲しい」と表現しているようにも感じますね。

何に惹かれたのか、どうして惹かれたのかを明確に表現しないのは、まさにジブリといった感じで、視聴者としてはどこかもどかしさを感じるかもしれませんが、そういったことに思いを馳せるのも恋愛ものの楽しい部分ですよね。海も風間も真面目な性格をしていますし、日々のことを一生懸命やっている相手に興味を持ち惹かれ合うのも納得です。

時代背景に戦争を覗かせたり、学生運動をメインとして盛り込むなど、大きくストーリー展開を変えた映画『コクリコ坂から』。原作から大きく話の主軸を変えたのは、今現在アニメを見ている人々に、当時の若者の力強さ、たった数十年で大きく変わった日本の姿を見て欲しかったからではないでしょうか。ジブリ作品が、大人も子どもも楽しめるのは、こういったメッセージ性が強いからだと考察されます。

言葉ひとつ、行動ひとつ取っても、昭和中期と現代では、意味合いや周りからの評価がまるっきり変わってきます。現代でも共感できる作風でありながら、その価値観などはまるで違うというのは、観ていて楽しい部分でもありますし、過去の日本を知るうえで勉強にもなりますよね。

前の項目でも少々触れましたが、『コクリコ坂から』では、若者の強さ、その時を生きている人々の未来へ進んでいく強さを描きたかったのではないかと考察されます。強硬な手段に出てても、自分たちの主張を聞いて欲しいという学生たちの意地や、どうしようもない出来事を前に、それでもいいと踏み越えていけ精神的な強さが、本作では目立っているように感じました。

また、海の父と風間の父の共通の知り合いが「2人に会えてよかった」と言うシーンでは、次世代へと繋がっていく命、先の未来を想像させる希望など、戦争で失ったものは多々あれど、時間は流れ、時代は進んでいくということを表しているようにも感じられます。消えない傷が、やり直せない過去があったとしても、先の道へと進んでくれるものがあれば、未来は明るいものになる、ということを表現したかったのではないでしょうか。

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高校生たちの恋愛と、当時を生きる若者の姿を描いた『コクリコ坂から』。原作と映画は雰囲気も設定もだいぶ違うので、映画が好きな方は原作もチェックすると、より楽しめると思いますよ。

また、本作の舞台となった時代は、東京オリンピックを翌年に控えた1963年なので、2019年現在、東京オリンピック2020を翌年に控えた今改めて見ると、その時代の違いを感じることが出来るかもしれません。

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サムネイル画像は下記より引用しました。
出典: https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/71XviSiGhqL._AC_SL1000_.jpg