~はじめに~ 酸化チタンって何?何が問題?
化粧品の成分表を見ると、その多くに「酸化チタン」というものが含まれています。
さまざまな化粧品に欠かせない重要な成分である一方、近年「からだに害がある」という指摘もあり、このまま使い続けても大丈夫なのかどうか、不安になっている人もいるかと思います。
そこで今回は、酸化チタンが一体どういう成分で、何が問題になっているのかを、酸化チタンのプロである日本産科チタン工業会のホームページや厚生労働省の発表なども参考にしながらまとめてみました。
酸化チタンってどんなもの?
酸化チタン(二酸化チタン)とは、イルメナイトという鉱物を細かく砕いてつくられる、白色の紫外線散乱剤(肌の表面で紫外線を跳ね返す働きがあるもの)です。
紫外線B波(UV-B)と、紫外線A波(UV-A)の両方を防ぐ働きがあるので、日焼け止めや、UVカット効果のあるファンデーションに配合されています。
ちなみに、紫外線B波(UV-B)と、紫外線A波(UV-A)とは
紫外線B波(UV-B)とは、肌が赤くなったり、水膨れができたりする主な原因になる紫外線です。エネルギーが強いですが、紫外線A波に比べると、地上に到達する量は少量だと言われています。
それに対して紫外線A波(UV-A)は、肌の奥深くまで到達して、じわじわと長い時間をかけて肌に悪い影響を与える紫外線です。紫外線B波の20倍以上も地上に降り注ぐと言われ、シミ・しわの発生の大きな原因になります。
化粧品やサプリなど、さまざまな用途で活躍
酸化チタンは、カバー力に優れ、有機化合物でないことから肌への負担が少ないとされているため、日焼け止めやUVカット効果のあるファンデーションのほかにも、さまざまな化粧品に使われています。
酸化チタンが使われている化粧品の一例
洗顔フォーム、クレンジング剤、シートパック、シャンプー&コンディショナー、ボディローション、フェイスパウダー、ミネラルファンデーション、BBクリーム、化粧下地、コンシーラー、口紅、リップライナー、チーク、アイブロウペンシル、眉マスカラ、アイライナー、マスカラ……など。
本当にさまざまな化粧品に配合されているんですね。
収れん作用があるため、テカリを抑える化粧水にも入っていることが多いようです。
また、錠剤やカプセル剤の中身を紫外線から保護し、安定性を向上させるという働きがあることから、サプリメントや薬のコーティングのためにも役立っています。
工業製品まで幅広く使われている
化粧品やサプリメントのほかにも、自動車、建築、電化製品、食料・飲料の包装フォルム用インキ、段ボール紙、ワイシャツなどの衣類、運動靴などにも活用されています。
無味無臭のため、食品添加物(着色料)として、ホワイトチョコレート、お菓子、ガムなどにも使われています。
活性酸素を防止するため、コーティングして使われることも
歯のホワイトニングでも使われる、優れた光触媒作用
酸化チタンは、光エネルギーが当たると化学物質・細菌・ウイルス・汚れなどを分解する作用があります。
この作用を「光触媒」と言い、歯科のホワイトニングで歯の着色汚れやステインを落とすときや、建物の抗菌・消臭対策や、汚れ・カビ・静電気をカットするときにも応用されています。
しかし、この優れた光触媒作用が肌の上で起こると、活性酸素が発生してしまい、肌を錆びさせる原因になってしまいます。
活性酸素を防ぐための対策が取られている
肌の上で光エネルギーが当たっても活性酸素が発生しないように、すでに酸化チタンの周囲を、シリカなどで薄くコーティングするといった対策が取られています。
また、化粧品に使われる酸化チタンは、もともと光触媒の作用が低い「ルチル型」というものがほぼ100%なので、あまり「肌が錆びるかもしれない」と神経質になる必要はないと思われます。
ちなみに、ウォータープルーフの日焼け止めには、揮発性(水をはじく性質)のコーティング剤が使われているそうです。
発がん性?毒性?酸化チタンの何が問題になっているの?
肌を錆びさせる「活性酸素」の対策はすでに取られていますが、実は、ほかにも酸化チタンに対する健康上の指摘があります。
それが「ナノ化」された酸化チタンの問題です。
ナノ化された酸化チタンに問題がある?
酸化チタンはもともとベタベタする・白浮きするなど、化粧品としては使いにくいという難点がありました。そのため1990年代頃から、白浮きせず伸びがよくなるようにナノ化する技術が採用され、現在に至っています。
しかし、ナノ化する技術によって粒子が細かくなり過ぎることで、酸化チタンが体内に浸透して悪影響を及ぼすのではないか、という懸念が出てきました。酸化チタンに「毒性がある」「発がん性がある」という噂は、この頃から生まれたようです。
さまざまな機関が、現在も調査中
消費者の不安な声を受けて、2000年代初頭から、ナノ化された酸化チタンに毒性があるのか、発がん性があるのかなどを、さまざまな調査機関が調べています。
実際のところ、酸化チタンの発がん性は?
平成29年の厚生労働省が発表した資料によると、ナノ化されたものに限らず、酸化チタンは「国際がん研究機関(IARC)によると、ヒトに対する証拠は不十分であるが、動物実験で発がん性の十分な証拠があったとして、2B(ヒトに対する発がんの可能性がある)に分類」とされています。
人への発がん性を疑う根拠として、吸入ばく露(気道を経由して摂取すること)によってラットの肺に腫瘍が認められたことが示されています。
しかし、マウス、ハムスターには腫瘍が認められなかったことに加えて、国際がん研究機関(IARC)以外の調査機関では、発がん性の十分な証拠を認めていません。
そのため、少なくとも現在では、酸化チタンの発がん性の疑いは「十分な情報が得られていない」と考えられます。
発がん性以外の問題(刺激性・アレルギー・毒性)は?
肌に付けたときの毒性は?
動物を使った吸入ばく露(気道を経由して摂取すること)の実験では、発がん性の疑いが上記のような結果でした。酸化チタンを扱う工場で働く機会がなければ、吸入についてはそれほど心配しなくて良いかと思います。
しかし、化粧品を使う場合はどうでしょうか。
ナノ化された酸化チタンを使用した日焼け止めを、人や豚に塗って皮膚への浸透性を観察した実験では、毛穴から肌の奥に侵入する可能性はあるとしても、ナノ酸化チタンは角質層深部、表皮層、真皮へは浸透しなかったそうです。
また、化粧品毒性判定事典でも、酸化チタンは「毒性なし」となっています。
そのため、現在ではナノ酸化チタンを使った化粧品を肌に塗る分には、そこまで毒性に神経質にならなくて良いのではないでしょうか。
皮膚や眼への刺激もほとんどなし
また、ナノ化酸化チタンについて、「皮膚刺激性/腐食性」、「眼に対する重篤な損傷性/刺激性」、「皮膚感作性」はいずれも「なし」と判断されています。
サプリなど、経口投与の場合は?
また、サプリや錠剤などに、コーティング剤として酸化チタンが使われている場合はどうでしょうか。
10%濃度の酸化チタンを13週間ラットのエサに混ぜたところ、死亡や病気の発症などは一切見られなかったと言われています。
ラットにナノ酸化チタンをは体重比5mg/kg静脈注射するという報告でも、健康影響、免疫反応、臓器機能のいずれも明確な変化がなかったそうです。
さらに、体重1kgにつき約10gの酸化チタンを摂取しないと致死量にはならないという報告もあります。
そのため、普段食事する分や、サプリや錠剤を飲む分には、経口摂取による毒性を心配する必要は、それほどないと考えられます。
化粧品やサプリを用いる分には、今のところ特に酸化チタン問題はない
上記のように、ナノ化酸化チタンの健康上にまつわる懸念は、ナノ化酸化チタンを生産する工場などで働いている人が日々吸引することによる肺への影響であり、消費者が化粧品を使う分には問題がないとされています。
~まとめ~ 酸化チタンのことを正しく知って、上手に付き合おう
今回は、酸化チタンへの不安をぬぐうために、噂されている発がん性や毒性についてまとめてみました。
化粧品やサプリを使う分には、今のところ「酸化チタン=健康に悪い」というわけではなさそうです。
とはいえ、酸化チタンのコーティング剤に使われている物質などによっても、肌への良し悪しは変わってきます。安全性について気になったら自分で調べてみるなどして、うまく日焼け止めや各化粧品、サプリなどと付き合っていきたいですね。