清水寺「音羽の滝」作法・飲み方・ご利益など:水は全てを清める
清水寺は平安京遷都以前からこの地にありました。平安京には東寺と西寺だけが官寺(いわば国営)でしたが、この寺に深く関わっていた坂上田村麻呂の蝦夷征伐の功により官寺となります。本尊の千手観音は長谷寺の観音像と並ぶほどの人気を博し、伊勢物語、源氏物語などに登場します。
清少納言は、その著「枕草子」で、清水寺の縁日の賑わいを「さわがしきもの」として、その観音信仰の人気を書き連ねています。そして「清水の舞台」と並ぶほど人気なのが「音羽の滝」で、ここの清水と山の名前がそのまま「音羽山清水寺」になっていきます。いかに音羽の滝が清水寺にとって重要かわかります。
清水寺「音羽の滝」作法・飲み方・ご利益など:①清らかな水の寺
本堂を過ぎて右に一気に下る階段を降りきったところに音羽の滝があります。シーズンを問わず、いつも人が並ぶほどの人気で、整然と観光客が順番を待っています。音羽の滝が、願い事を叶えてくれると言われているからです。
太古の昔、ここは文字通り滝でした。滝に打たれて修行する、仏法修行者の修行の場所でした。水は全ての汚れ、心も身体も全部の汚れを洗い流してくれる、そう信じられていたからです。さらに、水は心を強くする力があり、冷たく激しい流れに身を晒すと、心が引き締まり、冷たさに負けまいとする体力、精神力を養ってくれます。
日本ではことのほか清らかな水が尊ばれ、仏教では「閼伽(あか)水」、神道では「禊ぎ」などと呼ばれます。音羽の滝の清水は単なる清水ではなく、心身清めの霊水であるという宗教的な意味が強いということです。
清水寺「音羽の滝」作法・飲み方・ご利益など:②流れは一筋そして三筋へ
音羽の滝は長い間、何処に水源があるのか解りませんでした。調査の結果、東山一体に降った雨が地下深く何十年も掛けて濾過され伏流水となり、地圧によって断層の割れ目から出て来たことが解ります。清浄きわまりない「清水」であり、有史以来枯れたことが無い水のいわれがここにありました。
今でこそ、3つの樋(とい)を伝って3筋になっていますが、昔は当然一筋でした。三筋になったのはいつからかははっきりしていません。修験者が増えて、複数の人が修行出来るようにしたという説が有力です。写真のように、水だまりに石が置いてありますが、修行がなされたことがよく解ります。3つの流の出処はひとつです。要は清らかな水で心身を清浄にし、敬虔な気持ちで真摯に祈願することがなによりも大事です。
清水寺「音羽の滝」作法・飲み方・ご利益など:③三筋の功徳−1
音羽の滝の三筋の流にはそれぞれ別のご利益があるとされ、滝に向かって右から「健康・長寿」「恋愛・縁結び」、左が「知恵・学問」と言われています。既に書きましたが、少し遡れば水は一筋です。「苦しいときの神頼み」ではありませんが、江戸時代には、この滝のご利益は、左が「厄災消除」、中央が「金運上昇」、右が「学業成就」だったりして、時代によって変わっていることが解りますね。
また、バスガイドさんの説明で、左右のご利益の説明が逆だったという話もあるくらいです、繰り返しますが、水の力で心身を清浄にして、敬虔、真摯に祈願することが「所願成就」の大前提になります。あまり都市伝説めいた話にふりまわされないことも重要です。
清水寺「音羽の滝」作法・飲み方・ご利益など:④三筋の功徳−2
三筋になった二つめの理由として、人間の三大煩悩としての「貪欲(貪)」「瞋恚(瞋)」「「愚癡(癡)」の解消と浄化という意味があるとも言われます。「瞋恚」は「しんい」とよみ、怒りや恨みをさし、「愚癡」は「ぐち」と読み、真理に対する無知の心を意味します。
三大煩悩は、仏教語では「三毒」とも呼ばれ悪の根源とされます。こういう、人間について回る煩悩を解消、取り払う力が在るのは、清水寺の持つ、というより音羽の滝の、やはり清い水、「清水」としての霊力といわざるを得ません。
清水寺「音羽の滝」作法・飲み方・ご利益など:⑤三筋の功徳-3
そして3つめの理由は、人間の根本的な行為、「身(行動)」「口(言葉、話し)」「意(こころ)」という、いわば基本的な業(ごう)を清浄化する、という意味もこめられています。大昔にここで滝に打てれて修行した僧侶たちにとって、音羽の滝は「黄金水」「延命水」として信仰され、本尊の観音に由来した「功徳水」、心身を清める「金色水」など様々な表現をされてきましたが、全てが清水寺の持つ霊力が根底にあり、それに対して真摯に祈願する、それしか在りません。
面白いのは江戸時代に書かれた「観音霊場記図絵」という書には、「現世利益の観音様」らしく、音羽の滝の三筋のご利益を、「中は利得、右は知恵、左は慈悲。観音の三体とす」とあります。時代が変わっても、人々の心の有り様は変わらないようです。
清水寺「音羽の滝」作法・飲み方・ご利益など:⑥作法・お水の頂き方
音羽の滝の霊水を頂くには、先づ一筋を選びます。遠くから来たのだから、と欲張ってはいけません。それも一口だけ頂くというものです。ここにも人間の煩悩を抑制する力が働きますね。二口飲めば半分、三口で三分の一にご利益が減っていくというのです。筧の流れによってご利益が違う、といいますが、元の流は同じです、ここは非常に混んでいます、空いている筧のお水を頂きましょう。譲り合いや和の精神は重要です。
修学旅行の生徒たちがはしゃぎながら水を飲んだりしていますが、全てが神あってのこと、仏あってのことです、願掛けをする側に真面目さが無ければ、願いなど叶うわけがありません。
実は、ここで最も重要なのは、音羽の滝の上部の祠には不動明王が祀られています。清水寺は昔から、観音信仰のメッカと言われる程のお寺ですが、真言宗も兼宗した時代もあり、不動明王はその真言密教の大日如来の化身と言われる仏教界の上位の仏様でもあります。その守護神が音羽の滝の守護をしているのです、滝の前に来たら、先づお不動様に一礼しましょう。
清水寺「音羽の滝」作法・飲み方・ご利益など:⑦美味しい水
音羽の滝の水が何処から出てくるのかは、冒頭で紹介しましたが、長い年月を掛けて、地下から沸き上がって来た清水は飲泉に差し支えることはありません。「古都に眠る千年の地下水脈」という論文を読んでみたのですが、京都全般は、若干の硬水という結果が出ていますが、音羽の滝に限っては、適度のミネラル分を含んだ硬度8という超軟水というのが正しいようです。それを汲んでテイクアウト出来ます。お茶や珈琲が美味しいそうです。
また、便利なことに、山内の売店で瓶詰めされた音羽の滝の清水を、「御祈祷水 音羽霊水」として販売されています。ここに来ることが出来ない遠くの方や病気を抱えている人にはうってつけのお土産にも見舞いの水にもなります。商魂たくましいなどと言ってしまったら身も蓋もありませんね。
清水寺「音羽の滝」作法・飲み方・ご利益など:⑧枯れることのない霊水
地震大国日本では、大きな地震が起こると、温泉地などで、温泉の色が全く変わったり、温泉そのものが湧出しなくなったりと、死活問題が発生したりします。清水寺の音羽の滝は、お寺が建立される以前から、修験僧の道場になっていて、清水寺建立以降の1240年以上もの間、水涸れが起こっていないというのですから、霊水、清水の霊験を改めて感じてしまいます。
比叡山延暦寺が、最澄以來の灯明が今も消えずにあることなど、京都という町が巨大なパワースポットという意味を改めて感じ、音羽の滝の清水がそれを如実に物語っている気がいたします。この今、この瞬間も、音羽の滝の霊験あらたかな清水を頂きに人々が訪れていることでしょう。
清水寺「音羽の滝:まとめ
京都清水寺発祥の「音羽の滝」のご利益やその歴史や不思議な霊力を訪ねてきました。特に三筋に別れた滝の謂われや意味に、清水寺を訪れる時の一助になれば幸いです。