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海獣の子供

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【ネタバレ有】「海獣の子供」の見どころを解説!ラストシーンの椅子の意味は?

2019.07.31

自分の気持ちをうまく言葉にできない少女と、少々変わった少年2人との、ある夏に起きた出来事を描いた『海獣の子供』。独特のタッチと世界観が魅力的な『海獣の子供』について、その見どころをネタバレ紹介していきます。必要なところは漫画からもネタバレしています。

  1. 【海獣の子供】『海獣の子供』とは【ネタバレ】
  2. 【海獣の子供】見どころ①原作絵そのままの映像【ネタバレ】
  3. 【海獣の子供】見どころ②琉花の成長【ネタバレ】
  4. 【海獣の子供】見どころ③独特な設定【ネタバレ】
  5. 【海獣の子供】見どころ④水中の美しい映像【ネタバレ】
  6. 【海獣の子供】考察①「飛ぶ」ことと「泳ぐ」こと【ネタバレ】
  7. 【海獣の子供】考察②「空」と「海」、「隕石」と「誕生祭」【ネタバレ】
  8. 【海獣の子供】考察③「生」と「死」【ネタバレ】
  9. 【海獣の子供】考察④ラストの椅子の意味【ネタバレ】
  10. 【海獣の子供】海獣の子供についてまとめ
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『海獣の子供』とは、五十嵐大介原作の漫画です。文化庁主催の文化庁メディア芸術祭のマンガ部門にて優秀賞を獲得するなど、同業者からの評価も高い本作。2019年6月に映画が公開されることが決まると、それを待ち望む声が多く上がりました。

中学生の少女・琉花は、夏休みが始まり部活のハンドボールに集中できることを喜んでいました。しかし、初日からチームメイトに怪我を負わせたことで部活に顔を出せなくなってしまい、憂鬱なまま父親の勤務先でもある水族館へ向かいます。そこで琉花は、ジュゴンに育てられたという兄弟・空と海のうち、弟の「海」に出会いました。

やはり見どころのひとつとなるのは、映画のタッチが原作そっくりである部分ではないでしょうか。どの作品も原作絵を意識して映像化しているとは思いますが、やはり原作者の絵のタッチとは変わってしまうことも多いです。そのなかで、『海獣の子供』は非常に原作者の絵に近い絵柄で描かれているのが特徴的ですね。

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特に、五十嵐さんの絵は特徴的な絵柄をしていて、そのタッチだからこそより恐ろしさや美しさを感じることができます。『海獣の子供』は明確に「言いたいことはこういうことだ」というのが明かされていないので、明かされない謎について想像させる奇妙さや、より深く作品に入り込むためには五十嵐さんの絵柄が必要不可欠とも言えますね。

難しい世界が魅力的な『海獣の子供』ですが、映画では琉花中心に視点を当て、彼女に沿った物語の描き方をしています。漫画はもう少し多角的に描かれているのですが、映画としてまとめるのであれば、この視点が非常に良かったようにも思えますね。メインとなる3人のなかでは、やはり琉花がもっとも成長する人物に当てはまるでしょう。

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琉花はそもそも人に自分の気持ちをうまく伝えられず、そのせいで周りからは問題児のようにも思われていました。海や空に対しても、当初は感情的に物事を言ってしまうような場面がありましたが、それも次第に減っていき、相手に寄り添いつつ、自分のなかで言葉や感情を噛み砕けるようになっていきます。一夏のことにしては非常に大きな成長ですよね。

タイトルにある「海獣」とは、海に住んでいる哺乳類のことです。本作は、そんな海獣の一種であるジュゴンに人間の男の子が育てられた、という設定があります。そのため、普通の人より海に長く潜れ、陸にいるときは定期的に濡れなければいけない様子。琉花や彼女の両親、周りの人々などは基本的に等身大の人間なだけあり、この特殊な設定の異常さが際立ちます。

この世界において、「海は星々の産み親」と語られています。海を母に例えることは現実でもありますが、ここでは空の彼方に輝く「星々」の産み親とされるなど、ファンタジーとSFが入り混じったような、どこか宗教的な価値観すら感じさせますね。現実的な部分とそうでない部分が両方あるからこそ、この世界の怪しさが感覚として伝わってくるようです。

これはカラーと動きのある映像だからこそ感じられる部分ですね。物語のメイン舞台が海なため、海中や水中の映像が非常に丁寧に描かれているのが魅力的なところでもあります。水の外にいるからこそわかる美しさ、海中や水中にいるからこその美しさというものを丁寧に描写することで、陸上生物・水中生物の住む世界の違いを感じられます。

また、リアルに描写するところ、空想と現実を混ぜて描写するところをはっきり分けることで、まったく違う世界を想像させ、それでいて同一世界で想像にも及ばないことが起こっていることを想像させられます。前半と後半ではまったく海の雰囲気が違うので、そこにも注目したいところです。

琉花はハンドボールをしている最中、モノローグで「私は飛べる」を語ります。その言葉通り華麗なジャンプからシュートを決めるのですが、その後チームメイトに怪我をさせたことでハンドボールはできなくなり、帰る途中には派手に転んでしまいます。その姿は「飛べる」と自信満々に言っていた彼女からは想像ができない姿ですね。

それから、彼女は水族館の水槽で悠々自適と泳ぐ「海」を見ます。地に足をつけ、高い水槽を見上げる姿は、飛ぶ羽を奪われた彼女が、自由に飛ぶ彼を羨望しているようにも見えますね。本作において、「泳ぐ」ことと「飛ぶ」という行為は非常に似たものだと言えるのではないでしょうか。

飛べない鳥の一種であるペンギンは、空を飛べない代わりに海を飛んでいる、と言われることがあります。空と海と琉花は一緒に海中を泳いだりしますが、琉花=ペンギンだとすると、ペンギンは鳥類なので「海獣の子供」である彼らの仲間になることはできません。彼女が最終的にハンドボールの元へ戻っていくのは、彼らとそもそも違う存在であることの表れであると考えられます。

また、原作漫画にあるシーンで、まだ海などがなかった時代、空を飛んでいた鳥が水を大量に保有する石を地上に落としてしまうというものがあり、この石が落ちたことで地上には海が生まれ、海の生物が誕生したとされています。琉花が途中で隕石を飲み込んでしまうことを考えると、最初に海を作り出したこの鳥をイメージしているとも推察できますね。

「空」と「海」は、赤ん坊のころから海中で生活し、ジュゴンに育てられていました。そのせいで陸上の生活になかなか順応できませんが、検査の結果は「人間である」というもの。おそらく、体のパーツとしては人間だと思いますが、「人間から生まれた」わけではないでしょう。

作中で何度か登場するフレーズに、「星の、星々の 海は産み親 人は乳房 天は遊び場」というものがあります。彼らは、海獣であるクジラたちが呼びかける「誕生祭」で産まれる、新たな「星」のための栄養素だったのではないかと考えられます。だから「人間」である必要があったのではないでしょうか。

ここで登場する「誕生祭」は、その言葉通り、新たな宇宙が星が産まれることを指すのでしょう。それがなぜ「クジラの歌」で共有されるのかですが、作中に登場するクジラはこの世で最も大きな生物・シロナガスクジラです。地球上の最大生物ということを考えれば、彼らが地球の支配者であり管理者であり、核だとも言えます。そんなクジラたちが、隣人である星たちの誕生を祝い手伝うのは当然と言えば当然と言えそうですね。

ただ、この誕生祭には隕石が欠かせません。「海が産み親」=「母体」だとするのであれば、この隕石とは精子ではないかと考えられます。隕石を落とす側の「空」が、琉花に隕石を飲ませるのは、彼女が子供を産める女性だからではないでしょうか。誕生祭終盤、赤子に姿を変える「海」を琉花は愛おしそうにあやします。そして、最終的に「空」からもらった隕石を彼に渡してしまうのです。

彼らの名前が「空」と「海」ということからわかるように、「海」自身も母体のひとつだったのではないでしょうか。まだ誕生祭開催には早く、母体となれない「海」のために、「空」は琉花に隕石を預けたのではないかと考えられます。

物語の最後、琉花の母は子供を出産し、そのへその緒を切る作業を琉花に任せます。それを切った琉花は、「命を絶つ感触がした」と表現しますが、へその緒を切るという行為は、子供が自分で生きることができるようになった証であり、「命が生まれた瞬間」のはずです。

それなのに、なぜ「命を絶つ感触」と感じたのか。それは、彼らが「人魂」と呼んだ隕石、そして「誕生祭」が理由ではないかと考えられます。「誕生祭」はそのまま「生」ですが、隕石が「人魂」つまり「死」であるとすると、誕生祭に隕石が必要だということは、「命がなくなることは新たに生まれること」の表れだと推察できます。

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本作の主題歌であり、作中に何度か登場する「海の幽霊」という言葉。隕石と誕生祭と同じように考えると、「海の幽霊」は「海で命を失ったもの」であると同時に「別の場所で新たに生まれるもの」だと考えられます。

母体を海と考えるなら、母体から出て一人で生きられるようにする「へその緒を切る行為」は、「海での命を終わらせる行為」であり、「命を絶つ行為」とも言えるでしょう。『海獣の子供』において、「生まれること」は「死ぬこと」であり、「死ぬこと」は「生まれること」になるのでしょう。

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米津玄師さんの『海の幽霊』をエンディングに、スタッフロールとともに描かれる椅子。背景はどんどん時間経過していき、椅子の上にはハイビスカスが乗せられるのですが、これは一体何を表しているのでしょうか。映画には描かれませんでしたが、漫画には「海」が椅子の意味について話すシーンがあります。

とある島では、先祖の霊が帰ってくる日に海岸に椅子を置いておき、帰ってきた先祖はその証に何かを椅子の上に置いておくというもの。エンディングの椅子は、姿は見えなくなってしまった「海」と「空」が、いつ帰ってきてもいいように琉花が置いたのではないかと考えられます。琉花の住んでいる場所は東京ではないので、お盆が8月だと思われます。先祖の霊を迎える時期としては、ピッタリですよね。

米津玄師さんの『海の幽霊』は、そのまま椅子の意味について歌っているようですね。椅子が「空」と「海」を迎えるものであるなら、ハイビスカスはなんの象徴なのでしょうか。その島では帰ってきた証として何かしらが置かれるらしいですが、物語終盤では荒れた船内にまるで血のように散らばったハイビスカの描写があります。それを踏まえると、ハイビスカスは「死」を、つまり、すでに新たに生まれたことを報告しているようにも思えますね。

他の解釈としては、「ハイビスカス」=「琉花」なのではないかとも考えられます。ハイビスカスは暖かい地方に咲く花というイメージで、日本で言えば沖縄あたりが有名ですね。ここで琉花の名前について考えてみると、「琉花」の「琉」の字は、沖縄を指す「琉球」という言葉に使われており、続く言葉は「花」。「琉球の花」でハイビスカスを想像できますね。

ハイビスカスが琉花を表していると考えると、帰ってきたことだけではなく、「見えなくてもいつだって琉花の側にいるよ」というメッセージのようにも受け取れます。

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ただ観て楽しいわけではなく、その設定や世界観について非常に考えさせられる『海獣の子供』。漫画を読んでいなくても、作品として面白い映画ですが、漫画を読んでいると、より物語を理解でき、楽しむことができますよ。

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