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猫の恩返し

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猫の恩返しと耳をすませばの関係性は?伏線の存在など徹底考察!

2021.07.14

あまりジブリらしくない作品とも言われる『猫の恩返し』。人間の登場人物が少なく、猫だらけの猫好きにはたまらない作品です。そんな『猫の恩返し』は『耳をすませば』とともに語られることも多いですが、2作にはどんな関係があるのか、その世界観について考察していきます。

  1. 『猫の恩返し』とは
  2. 【猫の恩返し】『猫の恩返し』と『耳をすませば』の関係【考察】
  3. 【猫の恩返し】「猫の事務所」について【考察】
  4. 【猫の恩返し】猫の国について【考察】
  5. 【猫の恩返し】猫の国での「時間」という概念【考察】
  6. 【猫の恩返し】ムタ・バロン・トトの時間について【考察】
  7. 【猫の恩返し】白猫・ユキについて【考察】
  8. 【猫の恩返し】ハルの変化【考察】
  9. 【猫の恩返し】『猫の恩返し』というタイトルについて【考察】
  10. 『猫の恩返し』についてまとめ
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『猫の恩返し』とは、柊あおい先生原作の漫画『バロン 猫の男爵』を、ジブリがアニメ映画化した作品です。一応、『バロン 猫の男爵』が原作ということになっていますが、もともと『バロン 猫の男爵』は、宮崎駿監督から「こういう話がいい」と言われて、柊あおい先生が描いた漫画になります。ただ、その漫画が宮崎駿監督が思っていたものとは違うものになったため、脚本も監督も別の人に任せ、スタッフも若手ばかりで作成されることとなりました。

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女子高生の吉岡ハルは、ある日の放課後、大通りに飛び出しトラックに轢かれそうになっている猫を助けました。言葉を話し2本足で立ってお礼を言ったその猫を不思議に思いながらも、あまり深くは受け止めませんでした。しかしその夜、助けた猫の父である猫の国の猫王とその一行がハルを訪ね、翌日からお礼をすると宣言。翌日待っていたのは、盛大な「猫の恩返し」でした。

『猫の恩返し』は、主人公で人間のハルと、猫の置物・バロン、巨大猫・ムタという2匹の猫を中心に物語が進んでいくのですが、『猫の恩返し』より7年前に公開されたジブリ映画『耳をすませば』に、同じ名前の置物と猫が登場するのです。

『耳をすませば』の主人公・雫を「地球屋」という古道具屋に連れて行ったのが、「ムタ」「ムーン」「お玉」などと呼ばれていた猫で、その地球屋に飾られていたのが「フンベルト・フォン・ジッキンゲン男爵」、通称「バロン」でした。

実は、『猫の恩返し』は、『耳をすませば』の主人公が書いた小説という設定になっているのです。ハルをバロンの元へ案内するムタなどは、そのまま『耳をすませば』の雫の体験ですよね。バロンも巨猫のムタも、外見はほぼ『耳をすませば』のままなので、どちらも観ている方にはわかりやすいです共通点ですね。ちなみに『耳をすませば』の原作も柊あおい先生の漫画になります。

ハルが、猫の国に連れて行かれるのをどうにかしようと、天の声に従って訪ねたのがバロンの経営する「猫の事務所」です。なぜバロンは猫の事務所を開いているのか、というところですが、これは当初宮崎駿監督が想定していた「バロンが主人公の探偵もの」に由来するのではないかと考えられます。

『猫の恩返し』は女子高生が猫の国行くという話なので、「バロン主人公の探偵もの」とはだいぶ違う話になっていますが、「バロン」「探偵」というキーワードを「猫の事務所」に取り入れたのではないでしょうか。バロンが普段探偵のようなことをやっているのかどうかはわかりませんが、ハルの相談に乗ったり、猫の国まで助けに来るところを見ると、そういったトラブルや相談を受ける場所をやっているのは間違いないでしょう。

「猫の国」とは、その名の通り猫ばかりがいる国のことです。一体どこにあるのか、入り口はどこなのか、猫の国に関わったことのない者は詳しくは知らない不思議な場所ですが、その入り口は大きな肉球のような場所。上を飛んでいるカラスのトトや、その背に乗るバロンと比較すると非常に大きな入り口であることが分かりますよね。

ただ、バロンやトトは人間に比べるととても小さい体をしています。彼らのサイズで考えると非常に大きく見える入り口ですが、人間目線で考えると、意外とそんなに大きくないのではないでしょうか。猫の国についたハルがムタより小さくなっているので、ついついその直前の入り口のシーンも大きく感じてしまいますが、すべてが猫サイズということを考えると、あんなに多くの猫が暮らす猫の国が世に知れ渡っていないのも納得です。

猫の国についたハルは、最初は人間の姿をしていますが、猫も悪くないと考えるたび、その姿を猫へと変えていきました。ハルが人間としての自分の時間を放棄しようとしたことで猫の姿に変わる、というのは考えてみるとなかなか怖い現象ですよね。外の世界では夜中だったのに、猫の国は陽がさしたように明るいというのも、時間の流れの違いを感じさせる怖い部分です。

猫の国は、完全に現実世界とは別空間にある世界で、そこに昼夜など存在しないのではないかと考えられます。「時間」が存在するということは、その時間何をするのか、何を食べるのか、何をしなければいけないのかなど「生きる」ことに直結します。猫の国が死後の世界ではないかとという都市伝説があるのも、この国の猫たちがきちんと「時間」を「生きていない」ことに由来するのではないでしょうか。

猫の国から帰るとき、現実世界の夜が明ける前に塔から脱出するよう言われます。それがハルの人間としてのタイムリミットであることは分かりますが、では日暮れとともに目を覚ました置物のバロンや、石像のトトのタイムリミット、主人公組のなかではおそらく一般的な猫・ムタのタイムリミットはどうなっているのでしょうか。

バロンやトトが陽が登っても普通に動けていることを考えると、彼らにとって「時間経過」はあまり重要ではないのではないかと考察されます。もし、日暮れが条件で動き出すのであれば、日の出には動かなくなるのが常です。それでも動いているということは、猫に関する事件、もしくはバロンが請け負える仕事がある、猫の事務所に依頼が来るなど、「事象」を条件に動いているのではないかと考えられます。トトは事務所が動き出すと動けますしね。

人工物であるバロンとトトが、「事象」によって動いていると考えると、ムタはどういう立ち位置になるのか不思議なところ。彼が以前猫の国を訪れていることを踏まえると、ムタもまた動物としての時間の理からは外れているのではないかと考えられます。そもそも現実世界の猫は人語を話せませんし、ハルとはまた違う時間を生きているのではないのでしょうか。

ハルに猫の事務所を教えたり、猫の国来てからは、ハルをなんとか現実世界に帰そうと動く白猫のユキ。このユキは、ハルが子どものころお魚のクッキーを食べさせてあげた野良猫だったのですが、彼女とその猫が同じ猫であることは序盤で知ることができます。

ハルの回想に出てきた猫が白いというのはもちろんですが、ハルが助けた猫・ルーンが持っていた箱と、幼少期のハルが持っていた箱が同じで、それを包むリボンがユキの首にあるリボンと酷似していることなどから、かつて助けた子猫がユキであることがわかるのです。

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ハルが子どものころ出会ったユキは、まだ人語を話すことが出来ておらず、このときのユキは現実世界を生きていた猫であったことが伺えます。猫の国が一体どういう世界なのかはわかりませんが、ハルとは違う時間が流れる世界であることは間違いなく、こうして再会できたのは奇跡のようにも思えますね。

ハルは当初、寝坊や遅刻をして母親に起こされるキャラクターとして描かれています。しかしラストになると、休日なのに母より早く起き、朝ご飯まで用意していたのです。髪型が短くなっていたのもそうですが、猫の国に関する一連の事件によって、ハルは「今を生きること」を非常に意識するようになったのではないでしょうか。

朝はきちんと起き、朝食を用意して食べ、友人と健やかな交流をする、というのは今生きているからこそできることで、髪を切ったのは彼女が成長し、また生まれ変わった証ではないかと考えられますよね。それは、世界を変えるような劇的な変化ではありませんが、1人の人間の転機となったことを考えると、非常に大きく、また重要な変化と言えるのではないでしょうか。

本作は、ハルが猫の国の王子を助けたことで、その世界の住人に恩返しをされるという物語ではありますが、この恩返し、当の本人はあまり嬉しそうではないですよね。恩返しをした側は「最大級の恩返しだ」と言いますが、それは猫基準で考えた場合で、人間のハルにとってはあまり嬉しくない恩返しでした。

猫の国への招待も、ほぼ拉致のように連れていかれ、恩返しとは少々ズレた対応をされるのですが、この最後の恩返しによって、ハルは成長するきっかけを得ることになります。恩返し自体が成功したかどうかは微妙なところですが、最終的にハルが人間として成長したことを考えると、恩返しはある意味成功を収めていますよね。ユキやルーンなどの直接的な恩返しはもちろん、そういった目に見えにくい部分も含め、『猫の恩返し』なのではないでしょうか。

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脚本も監督もスタッフも当時の若手が多く、あまりジブリらしくないとは言われるものの、それでも人気の高い『猫の恩返し』。大きな出来事がきっかけで、人間がちょっと成長するという、現実味のある人間の姿と、二足歩行で喋る猫というファンタジー要素が見事折り重なった本作は、大元となった『耳をすませば』とともにチェックしておきたい作品ですね。

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サムネイル画像は下記より引用しました。
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