エヴァこと『新世紀エヴァンゲリオン』は、1995年にアニメが放送され社会現象となった伝説的作品です。進撃の巨人は2009年に連載を開始しています。時系列としては、エヴァが先に世に出ていることから、進撃の巨人の内容がエヴァの物語と似てる部分が多いと言われています。

エヴァのストーリーを簡単に紹介すると、平凡な男子中学生がある日父親からの命令でロボットを操作して闘うことになったというものです。主人公が所属することになる組織やロボットには大きな陰謀があり、知らないうちに巻き込まれていきます。これだけだと進撃の巨人と似てるところがないように思うでしょう。

進撃の巨人とエヴァが似てるとされる点は①ヒロイン（ミカサと綾波レイ）②巨人とエヴァ（操縦の仕方）③最終計画（陰謀）です。進撃の巨人のどんなところが具体的にエヴァのオマージュなのか、比較してみましょう。

進撃の巨人のヒロインはミカサ、エヴァのヒロインは綾波レイです。2人が似てるのではないかと言われています。進撃の巨人でもエヴァでも、ヒロインは冷静で無口かつ無表情というキャラクターが共通しているのです。オマージュ元と思われるレイは、初めは物静かでほとんど感情の起伏がありませんでした。主人公シンジたちと交流する中で、少しずつ普通の少女らしさを得るのです。

性格に加えて似てるのは、2人とも主人公（シンジ、エレン）に対して深い愛情を抱いています。エヴァのレイはシンジを異性として意識し、徐々に恋心が芽生えます。彼に関わることでは感情表現が豊かで、シンジのことを思って不安になるのです。進撃の巨人のミカサも同じく、エレンがあらゆるもの・ことにおいて第一優先です。エレンが危機に陥ると、普段の落ち着きを失って、感情的に突っ走りがちになります。

主人公愛が強めなヒロインたちですが、仲間想いでもあるのです。エヴァのレイは、何を考えているか分かりづらいですが、他人との繋がりを重視しています。エヴァに乗って闘いに参加することで、シンジを始めとする仲間たちから信頼されると考えるのです。進撃の巨人のミカサも、レイ以上にエレン至上主義ですが、104期の同期生を大切に思っています。

進撃の巨人では人が巨人に変身し、エヴァでは兵器としての人造人間を操作します。両者で似てると言われるのは、操作方法です。進撃の巨人では、巨人の元である人は後頭部（首の後ろのくぼみ辺り）にいます。エヴァでは、人はエヴァの頭部に存在するパイロット席から操縦します。

進撃の巨人もエヴァも、人間と巨人（エヴァ）がテレパシーで意思疎通を図って闘います。しかし、人間側の精神状態が不安定だったり成熟しきっていないと、キャッチボールがうまくいかずに巨人側が度々暴走するのです。

進撃の巨人において、作品最大の鍵とされる陰謀は安楽死計画です。エレンとジークが企ていて、人類滅亡計画とも言えます。目的は、巨人討伐などの根源となった、始祖ユミルの血を受け継ぐエルディア人から生殖能力を奪ってしまうことです。エレンとジークは、ユミルの民（エルディア人）がこれ以上生まれなくなれば、先祖が受けてきた数知れない苦難の連鎖を断ち切れると考えています。

歴史的に忌むべき民族とされたエルディア人に生まれただけで、過酷な人生を送る可能性があることを危惧しているのです。事実、エレンは両親を亡くし、ジークはマーレ人とエルディア人両方の立場に苦しみ家族が散り散りになる経験をしています。当たり前の幸せを得られなかったことが、安楽死計画の考案に至った原因と考えられるのです。

その安楽死計画のオマージュが、エヴァの「人類補完計画」に見られます。使徒との戦いの末に掲げられた最終目標です。エヴァ最大の伏線が張られた計画で、全容が未だにはっきり明かされていません。目的は、個人としての「ヒト」を「一つの固まり」にまとめあげてしまって、非の打ち所がない完璧な生命体をつくりだすことです。その時、個人の人権や個性というのは無くなります。

なぜ人類（一人ひとりの人間）を合体させてしまうのでしょうか？エヴァでは、文明を築いてきた人類は未熟で、「正すべき」欠点が多く残っていると考えるのです。正すべき欠点は、現実の歴史でもあるように、自分の利益や名誉のために戦争を幾度となく繰り返したことだと推測されます。思いやったり協力したりすることはほとんどなく、憎み合ってばかりだと捉えたのです。

しかし、欠点を改善するにもすでにお手上げ状態で、これ以上人類は進化しないと結論付けました。それならば、完全に一つの生命体として融合させてしまおうと「人類補完計画」が生まれたのです。エヴァの敵である使徒は、他人と関わり合うことなく完全に独立して生きることができます。

人類も、一つになってしまえば衝突することなく、誰もが平穏のうちに生きられるはずだと考えたのです。エヴァと進撃の巨人では、人類が真にしあわせになるには、望むことや命を生み出す力を取り上げてしまうことが不可欠と考えている点が共通しています。何かを欲すること自体が苦しみの原因だと考えて否定しないのです。

進撃の巨人では、巨人はしばしば大声を上げる描写がされています。相棒である人間と以心伝心ができなくなって、混乱するエヴァが取る行動に似ているのです。進撃の巨人では感情が高ぶるとがなり立てますが、エヴァもエネルギーが制御できずに絶叫することからパクリではと疑われています。

進撃の巨人はエヴァからのオマージュだと言われていますが、違う点もあるようです。エヴァには①キーパーソンとなるキャラが男女いる②恋愛関係③主人公と父親の関係が悪いなどあります。

エヴァには、作品の核となる重要な設定を持ったキャラクターが2人ほど登場します。進撃の巨人では、エレン含めて鍵を握る人物が数多く見られます。エヴァの場合は男女それぞれ、相対するような設定がされています。男性は「渚カヲル」で、5人目のエヴァ操作者です。彼の正体は第17使徒タブリスで、使徒を生み出したアダムの精神を持っています。

本編中盤で、シンジの父ゲンドウがクーデターを計画していることを察知したゼーレが、ネルフに刺客として送り込みました。リリスの魂を持つ綾波レイと対になる存在です。カヲルはシンジの敵の立場ですが、彼と心を通い合わせ、最終的には自らの意思でシンジに倒されます。

女性は、ヒロインの綾波レイです。ファーストチルドレンで、エヴァ零号機を操作しています。見た目は少女ですが、その魂は人類を生み出した第2使徒リリスのものです。実はレイの身体の半分は、シンジの母親ユイ（故人）の遺伝子から出来ています。メインヒロインでありながら、エヴァ世界の真実をその身に隠し持っているのです。

エヴァのシンジを取り巻く恋愛模様は、複雑です。はっきりそうだとは言えませんが、シンジに好意を抱いているのは、綾波レイ・アスカ・ミサト・カヲルだと思われます。カヲルは男性ですが、シンジに強く心惹かれているような態度を見せています。同様にシンジも、同性とはいえカヲルの神秘的な雰囲気にときめいているのです。

綾波レイは、進撃の巨人との共通点で見たように恋心と思える感情を抱いています。シンジもレイのことを意識していますが、父ゲンドウの愛情を一身に受けている彼女に嫉妬心も持っているのです。両想いとは断言できません。

アスカこと惣流・アスカ・ラングレーは、エヴァの準ヒロインです。活発で勝気な性格で、レイとは正反対の言動を取ります。アスカの場合、シンジに出会う以前は加持に思いを寄せていたのです。一つ屋根の下に同居したこと、同年代のことからシンジを異性として強く意識します。しかし、レイの淡い恋心とは違って、執着や反発する気持ちが大きく占めているのです。

葛城ミサトは、エヴァでは最年長のヒロインです。大人の余裕なのか、多感なシンジを思わせぶりな言動で困惑させて面白がっています。しかし、実はシンジとの関係性は一番複雑です。シンジの保護者・上司ですが、時に感情的になって彼にあたることもあります。ミカサは10代の頃過酷な経験をしているため、時々子どもっぽさが出てしまうのです。

また、心の深いところに他人を踏み込ませない面があり、シンジと似ています。ミカサ自身もシンジをかつての自分に重ねていて、そうした共通点が2人を心理的に急接近させるようです。「家族（姉弟）というには親密で、友達というには恋人に近い感情」がお互いにあると思われます。

一方で、加持（元カレ）にも未練を持っていて、彼が亡くなった時は激情をあらわにしています。そのため、恋愛という意味合いの感情はシンジにないのでは？とも推測することができるのです。

対して進撃の巨人では、エレンを取り巻く恋愛関係は比較的はっきりしています。メインヒロインのミカサは、昔からエレン一筋です。主人公とヒロインがお互いに思い合っているので、エヴァとは異なります。しかし、エレンがミカサを異性として好いているのかは、本編終盤の「地鳴らし」までは語られていなかったのです。「地鳴らし」実行前、エレンはミカサに、彼女の中で自分はどんな存在か尋ねています。

このシーンに、エレンのミカサに対する、他の女性キャラとは違う特別さが感じられるのです。ミカサは戸惑いつつも、「家族」だと返答しています。エレンはこの会話を最後に調査兵団から失踪してしまうのですが、直前の2人のやり取りは重要な鍵を握っていることがわかるのです。

エヴァでは、シンジと父親との関係がかなり悪いです。ゲンドウは最初から、自身の目的のためにシンジを呼び戻して利用しています。シンジがエヴァ初号機のパイロットとしていろいろなことに巻き込まれるのも、元はゲンドウに責任があるのです。またゲンドウはレイに計画のためとはいえ、特別に愛情をかけていて、実の子のシンジには冷たく接します。母親を亡くしていることからも、シンジとゲンドウの間には深い溝があるのです。

父との不仲がシンジの心に影を落とし、人間関係を築く上で大きな障害となっています。作中では、シンジはしばしば父親に振り向いてほしい欲求と反発する感情の板挟みになるのです。対して進撃の巨人では、グリシャとエレンの親子関係は良好だと言えます。グリシャはエレンが巨人化する要因をつくった張本人です。エレンの正義感の強さは父譲りであるため、大切にされていたとわかります。

進撃の巨人はエヴァのパクリでは？と言われる要素を見てきましたが、エヴァのオマージュになった作品もあるのではないでしょうか。反対に、進撃の巨人もエヴァ以外のアニメや漫画に似てる可能性があります。

2001年から10年間、荒川弘により月刊少年ガンガンで連載されていました。アニメ化・映画化され、2000年代を代表する人気作です。舞台は錬金術が存在する架空のヨーロッパ世界で、主人公は錬金術師のエルリック兄弟です。兄弟は昔、幼くして死別した母に再会するため、錬金術を用いて母の身体を再生しようと試みました。

しかし知らずに禁忌に触れてしまい、兄エドワードは左足、弟アルフォンスは肉体ごと失ってしまうのです。自らの身体を再生するためには、「賢者の石」が必要で、兄弟は国の錬金術師となってその石を探す旅に出ます。

進撃の巨人が似てると思われる点は、主人公の性質・古代ヨーロッパかつダークファンタジーの世界・グロテスクなシーンです。エレンの（初めの）目的は「巨人を駆逐すること」ですが、鋼の錬金術師のエドワードも、1つの目的に向かって突き進んでいます。錬金術は身体の一部を造り変えたり、奪ってしまうシーンがあるので、進撃の巨人のバトルシーンとよく似てると言われるわけです。

1990年、岩明均により講談社の月刊アフタヌーンで連載されていました。現代世界を舞台に、人間の頭脳に侵入・寄生して、他人を「主食」とする地球外生命体と高校生の共生を描いています。ある日空から見たこともない生物が降ってきて、襲われた人間は意識を乗っ取られてしまいます。主人公の泉新一にもこの異常生物の魔の手が襲い掛かりますが、なんとか阻止するのです。しかし異常生物は彼の片手に寄生してしまいます。

進撃の巨人が似てると言われる点は①人間（異常生物に乗っ取られた）が人間を「捕食」すること②異常生物は高度な知的能力を有して話せたり思考できたりすることです。①は、進撃の巨人でも元は人間である巨人が人を食らっています。どちらの作品もこうした設定から、グロテスクなシーンが多く見られるのです。②は進撃の巨人でも知性を持つ巨人がいて、人間と会話ができるものがいます。

1980年に放送された、富野喜幸監督のSFアニメです。無限のエネルギーを秘めた「イデ」をめぐる、2つの人類の闘いを壮大に描いています。他惑星への移住が可能になった未来、人類はテラフォーミングしていた星の一つで、異星人の遺跡を発見します。一方、伝説のエネルギー「イデ」を求めて異星人「バッフ・クラン」は調査のため、同じ星に降り立っていたのです。

2つの種族は些細なことから戦闘を始めます。やがてその闘いは宇宙の秘密をめぐるものへと発展するのです。エヴァがオマージュしていると言われる点は①ストーリー②「巨人」「人型」ロボット③敵のオマージュです。①は、宇宙の無限の力を秘めたものが物語の骨子です。人間の種族がそれを求めて、戦闘力として使うために、激しい闘いを繰り広げます。

②は、地球人が操作する大型ロボット「イデオン」には意識があり、操作者と以心伝心するのです。操作者の心が弱っていると時に制御不能となり、ロボット単体で暴走することもあります。③は、使徒がバッフ・クランと似ています。地球人が突如として争うことになった敵は、身体の構造が自分たちと9割同じ「人」だった、という真実が共通しているのです。

オマージュ元としてはかなり有名なようです。エヴァ監督である庵野秀明が、もともとウルトラマンシリーズの熱烈なファンでした。1966年の第一シリーズ放送から、50年以上制作されています。特撮ヒーロードラマの草分け的存在です。宇宙船や空飛ぶ乗り物が登場する世界で、人間と異星人（巨人）の悪怪獣との闘いを描いています。

エヴァが似てると言われる点は①「人造メカが悪者と闘う」ことがウルトラマンの世界観と重なっている②ロボットの見た目がウルトラマンから数多くオマージュされていることです。エヴァの身長はウルトラマンと同じで、中心部のコアはカラータイマーではと推測されています。

またエヴァのロケーションや、基地、エピソードなどウルトラマンシリーズから多くのヒントを得ているようです。キャラクターも、ウルトラマンのパクリと思わずにいられないところがあります。

諸星大二郎のいくつかの作品から、エヴァのオマージュまたはパクリと思われる要素が多く見られます。一つは『暗黒神話』です。少年ジャンプに1976年掲載された作品で、日本神話からインスパイアされたダークファンタジーです。主人公はヤマトタケルを元にした少年で、父親に関する秘密をめぐる旅をしながら、彼自身の運命を大きく変えるものに出会います。

エヴァと似てるとされる点は、エヴァ終局のストーリーと、暗黒神話の世界がそっくりなのです。具体的には、「サードインパクト」後の世界が、暗黒神話をかたどっているように見えます。

二作目は、『妖怪ハンター』です。考古学者の主人公が、仕事（調査）のために全国を旅し、その先々の地域で怪奇現象や超常現象に巻き込まれていきます。

エヴァと似てると言われる点は、同シリーズの「生命の木」です。東北の隠れキリシタンの地域を舞台に、キリスト教（創世神話）をベースにした物語です。旧約聖書で、エデンの園に植えられた「生命の木」の実を食べると、神と同じく不死になるという言い伝えが出てきます。エヴァにもセフィロトの木（生命の樹）が出てくるので、それのオマージュ元ではと言われます。

また、同シリーズの「黒い探求者」「死人かえり」にもエヴァのオマージュが見られるのです。古事記に登場する「水蛭子」をベースにした、ヒルコ（比留子）という化け物が使徒と似ています。

三作目は『生物都市』です。人間と未知なる生物が、化学的に融合していく怪奇現象を描いています。惑星調査を終えて地球に帰還した宇宙船ですが、その乗組員が調査先の惑星で謎の遺跡と接触していたことで、地球に恐ろしい現象をもたらします。あらゆる機械や金属が、人間とドロドロに溶けて一つになってしまうのです。

エヴァの人類補完計画は、この作品にインスパイアされていると思われます。人間と機械が合体する点です。調査先の惑星にかつて暮らしていた生命体が、母星が寒冷化する中で長く生きられないことを悟ります。苦しみの中取った手段が、「人でない存在と合体して身体を手放す代わりに命を長らえさせる」ことでした。

人は機械に取り込まれることで他人との意識の境がなくなり、お互いに一つの精神を共有し、広がっていきます。母体となった機械も人間の知性や意識を得て、「人類＋機械」の新しい生命体が誕生するのです。

進撃の巨人とエヴァの似てる点、パクリではないかと思われる点、元になった作品などを紹介しました。いろいろな意見はありますが、進撃の巨人もエヴァも、それぞれに読み応えのある素晴らしい作品です。両者の明らかに違う特徴を一つ書くとすれば、進撃の巨人は「人間同士の認め合うことの難しさ」を描き、エヴァは「命の始まり」を哲学的な視点で壮大に描いています。

特にエヴァはロボット・SF・精神世界など、一つのカテゴリーにくくれないさまざまな要素を持っています。進撃の巨人の心理描写も秀逸ですが、エヴァは「人はどこから始まったのか」という実に深いテーマを扱っているのです。いずれの作品も何度も見なければその意味するところははっきりつかめません。だからこそ惹きつけられるのでしょう。