『午前０時、キスしに来てよ』とは、『近キョリ恋愛』や『きょうのキラ君』など、その著作が多く実写映画化されているみきもと凜原作の少女漫画です。いわゆるシンデレラストーリーと呼ばれる、平凡な女の子が今までとまるで違う世界の住人と知り合うことで、幸せを手に入れる物語で、本作の主人公もどこにでもいる一般的な女の子になります。

映画の公開が2019年の後半で、原作もそろそろ終わりを迎えようというところだったので、物語の展開は単行本11巻に寄っていましたね。もちろん、原作自体はまだ終わっていないので、映画オリジナルな部分もありましたが、それでもかなり原作寄りな映画となったのではないでしょうか。

主人公の花澤日奈々は、とても真面目で、しかしおとぎ話のような恋を夢見る、少々夢みがちな女の子です。ある日、日奈々が通う学校が撮影の舞台に選ばれ、国民的人気のイケメン俳優・綾瀬楓がやってきました。そこで日奈々は世間のイメージとは違う、お尻大好きな少々変態ちっくな楓の本性にショックを受けますが、その後偶然会うことがあり、少しだけ親しくなります。

おとぎ話のような恋に憧れていた日奈々は、優しくかっこいい楓に次第に惹かれていきますが、楓が自分のことをどう思っているのかいまいちわかりません。そんななか熱愛報道が出た楓と、ついに距離を置くことを決めた日奈々ですが、そんな日奈々のもとに楓がやってきて、2人はお互いの想いを確か合いました。

このあらすじは、だいたい原作1〜2巻をまとめたものですが、このあらすじから分かる通り、本作は最近の少女漫画によくある、付き合ってからのほうが長いタイプの話になります。12巻が最終巻となるので、約10巻が交際してからの話になるわけですね。

少女漫画というと、美男美女ばかりの綺麗な絵で、恋に泣いたり笑ったり、キラキラと輝いて甘い世界を描いた物語のように思いますが、本作はギャグちっくな展開やイラスト、他の少女漫画なら甘い展開にいくような部分を明るく笑いにするような部分もあり、ただただ甘いストーリーが続くというわけではありません。

ギャグパートはキャラクターがミニキャラになって面白い顔をしたりするので、読みてもついついほっと息が抜けて笑えるのが楽しいところですね。こういったギャグ展開を、ギャグとしてきちんと描いていることで、その他のシリアスパートや甘々パートがより強調されており、そのバランスの良さが魅力のひとつでもありますね。こういった絵での表現は、やはり漫画ならではでもあるので注目したい部分です。

恋愛ものなので、日奈々側にも楓側にもライバルは登場しますし、楓が人気芸能人ということで、自分たちの関係を公にできないなど、様々な障害が2人の間に立ちはだかります。ライバルに関しては、お互いに動揺もしますし、多少の迷いも生まれますが、2人は決して自己完結することなく、自分の相手の気持ちと、相手からの自分への気持ちを信じながら、きちんと相手と向き合ってお互いの気持ちを何度でも確かめ合うのです。

楓との関係が他の人にバレたり、楓の過去の出来事で楓が苦しんでいるときは、日奈々は自分にできる精一杯のことで楓を支え、楓もそんな日奈々をより大切にしようと心に決めるのでした。2人の関係が崩れそうになっても、本当に崩れることなく、より強固な結びつきを作っていく部分は、本作の見所と言えますよね。

日奈々はそもそもとてもしっかりした女の子で、精神的に弱いかと言われればそんなことはないのですが、やはり恋愛に関しては色々と考えてしまうこともありました。しかし、意地の悪い大人に揉まれたり、しっかりした大人だと思っていた楓の弱い部分を知っていったことで、日奈々はどんどん人間として成長していき、精神的にも強くなっていきます。

養子だったこともあって、「良い子であり続けよう」とした日奈々が、自分のやりたいことをきちんと両親に伝えたり、楓に熱愛報道が出ても「それは意図のあることだ」と気に病んでいなかったり、日常生活でも恋愛面でも、楓と出会ったことで日奈々は大きく成長していくことになりました。こういった主人公の変化も少女漫画の見所ですよね。

本作は、2019年の12月6日に劇場公開されました。主人公・日奈々役は、その可愛い容姿が一気に話題を呼び、『銀魂』『斉木楠雄のΨ難』など大人気漫画の実写ヒロインを多数担当、2020年夏公開予定の大人気スポーツ漫画『弱虫ペダル』の実写映画でもヒロインを演じることになった橋本環奈さんです。お人形のような可愛らしさから、漫画原作作品のヒロインを演じることが非常に多いですね。

相手となる楓役は、話題を呼んだドラマ『3年A組-今から皆さんは、人質です-』に出演していた、「GENERATIONS from EXILE TRIBE」メンバーの片寄涼太さん。片寄さんは、同じく少女漫画原作の『兄に愛されすぎて困ってます』でも主演を務めており、今後も少女漫画原作の作品への出演が期待されますね。

映画のあらすじは、ほとんど原作のあらすじと変わらず、学校にやってきた楓と日奈々がひょんなきっかけで親しくなり恋人同士となるというもの。ただ、楓と日奈々の関係がスクープされた際の内容と、その後の展開が少々原作とは異なってきます。そもそも、原作がまだ結末を迎えていないため、映画の結末は映画オリジナルとなりますが、楓と日奈々の関係が週刊誌に載るというのは11巻にもある話です。

原作では、日奈々は女子高生とはわかっておらず、ただ「一般人女性」という表現にされ、映画のように3年も時間を置かずに楓と日奈々は会っています。映画のラストは作品タイトルに合わせが終わりとなっていたので、原作ももしかしたら同じような展開にするかもしれませんが、それまでの流れがまるで違うので、これから原作を読もうという方もきっと楽しめるのではないでしょうか。

また、映画のあらすじはほとんど原作のあらすじと変わらないと書きましたが、原作の内容と変わらないというわけではありません。映画は日奈々と楓の恋の話を中心に進んでいきますが、原作ではもっと楓の過去や、楓が過去所属していたグループの話が多く登場します。特に楓の過去についてはずっと原作内で長いこと尾を引くことになるので、楓という人物をより深く知るためには欠かせない要素ですよね。

また、映画にも登場した楓の元カノ・柊と、楓のマネージャー・茂ちゃん。この2人の恋なども原作では描かれています。少女漫画は、メインカップル以外にもサブカップルが登場するものですが、そのサブカップルとなるのが、この茂柊。原作でも少々影が薄いサブカップルではありますが、なかなか鈍い茂ちゃんの様子などは、見ていて楽しい部分でもありますよ。

あと1巻で完結となる本作。11巻ラストは、楓が日奈々にプロポーズのような言葉を言って終わっています。このことから、12巻はこの続きからの話になるか、当時のプロポーズを思い出している日奈々の回想で始まるかのどちらかだと予想されます。映画で3年という月日が経っていましたが、同じく3年経過するかは微妙なところですね。

昔もありましたが、近年では少女漫画の終わり方として、結婚エンドか、結婚して子どももいるおまけ的エンドのどちらかというのがより多くなってきていますし、すでにプロポーズはしていることから、そのどちらかになることは確定的でしょう。どっちの終わりになるかはわかりませんが、是非幸せそうな2人の姿を見せて欲しいですね。

綺麗な絵と合間に挟まれるギャグが魅力的な『午前０時、キスしに来てよ』。漫画原作作品多数出演の橋本さんと、最近注目を集めている片寄さんというヒット間違いなしの組み合わせで映画化された本作は評判もよく、漫画も実写映画もどちらもチェックしておきたいですね。